第6章 「認知症」予防の話 第2節 すぐに役立つ予防、これはやってみると良い予防策3項・日常的な生活に基盤を置いた生活療法
原因がはっきりしないからこそ日常のトレーニングを
前回述べました様に、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症、前頭側頭葉型認知症では神経細胞に生じる封入体が悪さをしますが、その発生原因はいまだはっきりしません。そのため予防は難しいのです。
しいて言えば、食事の話で述べたように食べ物に注意を払うことが予防につながると言えます。そして、流行にもなりましたが「脳トレ」は、脳血流量を増加させることで良いことだと思います。ただ、それにだけ頼るのは危険です。日々の生活に、日常的な言動に繋がる行動をトレーニングすることは、大切な予防となり得るように考えます。
従って、日常的な生活に基盤を置いた生活療法は、大いに予防や進行防止に効果的と言えます。
9つの予防トレーニング
記憶…。これは学校の勉強と違って、日常生活で必要な事柄の記憶についてです。日常生活とは直接関係のない授業の事柄を覚えるのではありません。
日常生活で必要な事柄とは、
①住んでいる所、近くのお店やスーパー、そしてコンビニ、郵便局や区役所の場所
②配偶者や家族、大切な知人や友人、そしてケアマネージャーの顔と名前
③ゴミ出しの日、プラスチックごみの日、雑紙や段ボールの日、年金の振込日
④病院受診の手順、薬局での手順、戸締りの手順、テレビや家電製品の操作手順
⑤ガス器具、風呂湯沸かし器、階段、敷居、窓ガラス、道路と信号機など危険認知の記憶
⑥回覧板情報、TVのニュース、電話などの情報
⑦モノの始末場所、モノの置き場所、箱の中身、引き出しの中身、情報のあり場所の記憶
⑧今日の曜日、日にち、今月、今年の年号、関連しての年齢
⑨会話の情報―事柄と日時、事柄と場所、事柄と伝える相手
こうした事柄の記憶が日々の生活には欠かせないものです。これらを記憶する、記憶しておくトレーニングこそが役に立ちます。数学や歴史や理科の知識を記憶しておくことよりも生活に大事です。漢字の筆順、熟語の意味、諺よりも大事な生活するための記憶事象です。
これらを記憶して思い出すトレーニングこそ、認知症予防となってあなたを支えてくれます。そのためのトレーニングは、日々毎日欠かさずそれらの事柄を復唱することです。なーんだと思われるかもしれませんが、これに尽きます。これらをどのように復唱するかがポイントとなります。
上記の9つを、時間を区切って指差し確認をしていきます。時間で行うスケジュール表を手帳に書いておきます。時間毎にその時間になると、指差し確認をします。一日一回必ず9つのことについて確認をします。これで、日々使う事柄を確認していくのです。
予防は今日からはじめてみましょう
50歳から始めると良いでしょう。
60歳になると、毎日することが成程と感じます。
70歳になると毎日のことではありますが、ちょっと考えないと出てこない、繋がらないようになります。
80歳になるとちょっと待てよと思い出すのに時間を要するようになってきます。これが、普通の傾向です。
しかし、このトレーニングをすると認知症になるときは、アレッどうしたのかなと、思い出さない自分に気付きます。そうした時に、毎日1回を2回、3回と回数を増やしていくトレーニングにします。そうすると、思い出すのが易しくなることを発見します。これで予防につながるのです。
このトレーニングでは、覚えるトレーニングの対象が日々生活に役立つことなので、生活に支障をきたさずに暮らしていけるので、自分も周りの人も安心され不安感は生じません。この安心感こそ、認知症への勇気をもたらしてくれます。
千里の道も一歩からです、50歳代では簡単なことでしょうから、すぐ始められます。
今日から早速やってみてください。
○時:①の確認と実行
△時:②の確認と実行
何時に何をするかは、各自で生活の応じて決めてください。
繰り返しますが、これらは生活に必要な事柄ですぐに役立ちます、そのことを思い出して続けてみてください。
明日のあなたを支えてくれます。
占部 新治(うらべ しんじ)
- 経歴
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- 1976年
- 北海道大学 医学部 医学科卒業
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1981年
- 北海道大学 医療技術短期大学部 理学療法学科 助教授
(現:北海道大学 医学部 保健学科)
- 1995年
- 札幌医科大学 精神医学講座 講師 外来医長
- 1999年
- 札幌医科大学 保健医療学部 作業療法学科 教授
- 2001年
- 札幌医科大学 大学院 保健医療科学研究院 教授
- 2007年
- 北海道大学 大学院 保健科学研究院 教授
- 2011年
- 京都 三幸会 北山病院 副院長
- 2013年
- 京都 三幸会 第二北山病院 副院長 現在に至る
- 専攻領域
- 精神医学、 神経科学、 リハビリテーション医学
- 主な著訳書
- 日経サイエンス「 運動の脳内機構」 E.V.Everts著
- 主な著書
- 臨床精神医学講座 S9 アルツハイマー病(中山書店)、精神医学 標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野(医学書院)、「学生のための精神医学」(医歯薬出版)
- 所属学会
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- 精神神経学会 専門医、専門指導医
- 老年精神医学会専門医、専門指導医
- 認知症学会専門医、指導医
- リハビリテーション医学会 臨床認定医
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